2009年3月25日水曜日

幻剣霊旗

 これは単独の一編というより『剣網塵絲』 とあわせた作品の後編といった方がいいかと思います。
この作品は天山系列のなかにあるといっても、登場人物は白駝山主・宇文博の妾だった穆欣欣と宇文博の甥で現白駝山主の宇文雷ぐらいが前の作品から継続して登場してくるだけで、天山派などの面々はまったく登場してきません。
 また、内容的にも武侠小説というより、男女のあいだの微妙な感情の交錯を描くことに重きが置かれているようで、どちらかというと恋愛小説といった方がピッタリのような気がします。三角関係、四角関係でこんがらがった糸をときほどいていく過程が、一種の謎解き的に展開されており、いままでの天山系列の作品とはやや趣が違っているような印象を受けました。
 なお、この「幻剣霊旗」は、作品のなかの「昆仑山上,幻剑灵旗。不服灵旗,幻剑诛之。」にもあるように、西域十三家の盟主である上官家の幻剑灵旗(幻剣霊旗)からきています。

2009年3月7日土曜日

剣網塵絲

 さて、楊炎と彼をとりまく女性達のその後はどうなったのだろうかと、続編とされている『剣網塵絲』を読んでみましたが、ここではいままで『絶塞伝烽録』にでてきた登場人物は誰ひとりとしてでてきません。
 『絶塞伝烽録』の巻末にある「请续看《剑网尘丝》(『剣網塵絲』を続いてお読み下さい)」というのはいったいなんだろうかと失望と疑問を感じざるを得ません。ただ、「天山派の掌門・楊炎」という記述があるのが、唯一の消息で、それで満足する以外にはなさそうです。
 それはさておき、この作品はいままでとはすこし違った印象をうけました。ストーリー展開が推理小説的に語られている点が、やや趣を異にしている様な気がしました。またいままでの天山系列にあったように、清朝廷との闘いが前面にだされるというより、闘いの構図が個人的な恩讐の次元にとどまっている側面もあり、こうした点は梁羽生があらたな技巧的試みをおこなっているようにも感じました。
  『剣網塵絲』は、物語がそれだけでは完結しません。『幻剣霊旗』に引き継がれそこで物語は完結します。