2008年8月30日土曜日

風雷震九州

 物語は、延々と語り継がれて、『風雷震九州』では、江海天の娘・江曉芙が年頃となる時代へと移っていきます。
『風雷震九州』は簡体字で約74万字で、『 雲海玉弓縁』や『冰河洗剣録』とほぼ同じぐらいの長さですので、かなりの分量があります。
 いままで、梁羽生の天山系列を読んできたなかで、この小説は二つの点でその特徴を際だたせていると思います。
 一つは、「反清」のテーマを全面に貫いていることです。「七剣下天山」や「江湖三女侠」などでも「反清」は核心的なテーマだったのですが、『 雲海玉弓縁』や『冰河洗剣録』などではこの点は後景に退いていた感があったように感じます。ここに来て、「反清」がふたたび前面に押し出されてきました。抗清組織の幹部の二人の息子が江海天の弟子となって、物語の重要な部分を占めていきます。
 もう一つは、物語のはじめからかなり疑惑にみちた男(谷中蓮の兄の息子を騙る葉凌風)を登場させ、一種の謎解き的な手法を使って、物語を展開してゆくという、技巧上の特徴が見受けられます。私は、梁羽生がここで、技巧上のひとつの試行をおこなっているように感じました。
 ともあれ、ここでも江海天の弟子たちを中心に、数多くの年若き男女の淡い感情を横糸に、そしてなによりも数々の武術を縦糸にして、物語が織りなされていくのです。

2008年8月9日土曜日

冰河洗剣録

 『 雲海玉弓縁』の続編は、『冰河洗剣録』です。ここでは、江南の息子江海天と、谷之華の養女であり弟子である谷中蓮が物語りの中心になっていきます。そこに、マサア国王の三人の遺児が絡んできて、(三人の内一人は谷中蓮ですが)、国王を殺し王位を簒奪した現国王との闘いがくりひろげられていきます。
 江海天は金世遺の弟子となり、さらには偶然にも天心石を3個も飲んだことから当世第一の使い手へと成長していき、金世遺のもう一人の弟子=マサア国王の三人の遺児の一人・唐努珠穆らを助けていくのです。
 ここでは、江海天の成長が物語りの大きな軸になっています。さらに、『 雲海玉弓縁』では結ばれなかった金世遺と谷之華が結ばれ、また江海天と谷中蓮などをはじめとして登場してきた若者達がみなうまく結ばれてハッピーエンドとなります。このあたりも金庸の『笑傲江湖』とかなり趣が似ているといえるのではないでしょうか。
 なお、『 雲海玉弓縁』は中国語で約70万字、『冰河洗剣録』は約75万字で、それぞれ単行本2冊なので、かなり長編といえるでしょう。このぐらいが、物語の展開としてもちょうど書きやすく、また読者にとっても読みやすい長さかもしれません。ちなみに、梁羽生の小説でただひとつ邦訳されている『七剣下天山』(文庫本で2冊)は、約44万字だそうです。