2008年6月27日金曜日

雲海玉弓縁

 『雲海玉弓縁』は、『冰川天女伝』の続編です。それ自体として、完結した一作品として仕上がっていますが、内容的には『冰川天女伝』を踏まえているので、やはり『冰川天女伝』を読んでからの方がおもしろさも増すと思います。
 この『雲海玉弓縁』、そしてその続編にあたる『冰河洗剣録』あたりになると、「天山系列」の作品も金庸の作品とかなり似通ったものになってきていると感じました。はるか彼方の離れ小島に秘伝書を探しに行くとか、「邪派」とか「正派」といった考え方、さらに「天魔教」なるものの登場(これは『冰河洗剣録』ではっきりとに登場してきます)、などなどをみれば金庸の「笑傲江湖」とかなり似ている印象を受けました。でも、梁羽生のこれらの作品の方が金庸の「笑傲江湖」より書かれたのが早いのですから、「金庸の作品も梁羽生の作品に似てきた」と言うべきなのかもしれませんが‥‥。
 物語の主人公は、金世遺です。金世遺と厲勝男、谷之華の二人の少女がおもな登場人物です。ここに、厲家の者を皆殺しにして秘伝書を盗み出した孟神通と、孟神通を仇と狙う厲勝男が先祖の師であった喬北溟の秘伝書を金世遺と探しにいく、‥‥こうして物語は展開していきます。武林の公敵たる孟神通が、じつは呂四娘の衣鉢の弟子である谷之華の血を分けた父であることも、物語を複雑にしています。
 それにしても、厲勝男、谷之華などという名前はよく考えたものだなあ、と感心させられました。「男に勝つ」女、「谷の華」などと、それだけでも登場人物の性格を窺い知ることができるというものです。

2008年6月10日火曜日

冰川天女伝 (3)

 こうして始まった『冰川天女伝』は、だがしかし陳天宇が主人公ではありません。この物語の主人公は、作品の表題にあるように、冰川天女=桂華生と華玉の娘・桂冰娥です。
 物語の前半は、チベットが清の支配下にあることを誇示するために、清朝廷が「金瓶」をチベットに下賜することを巡って展開されます。このなかで、桂冰娥と唐暁瀾の息子・唐経天との出会いとふたりをめぐる様々なできごとが描かれていきます。
 物語はの後半は、毒龍尊者の弟子である金世遺をめぐる話が中心になっていきます。金世遺は、師から伝えられた内功の修行ゆえに、かならずや魔境に入り(「走火入魔」)死に至ってしまうこと、そしてそれは天山派の正宗な内功をもってしか救えないこと、そして呂四娘や唐暁瀾は毒龍尊者との結びつきからなんとかして金世遺を救おうとするのですが、逆に金世遺は天山派の救いの手を素直には受け入れようとはしないこと、‥‥などが描かれていくのです。
 結論的には、金世遺は唐暁瀾によって助けられ、また桂冰娥と唐経天は結ばれるのですが‥。
 この小説を読んで、ひとつ気にかかったことは、「金瓶」をめぐる騒動のなかで、チベットがネパールやインドの支配下におかれるよりは、たとえ清朝のもとであっても中国の支配下にあったほうがいいと、反清で団結する江湖の英雄たちがみな大中華思想に絡めとられてしまったことです。オリンピックの聖火とチベット問題をめぐって、あのように中華ナショナリズムを発揮する中国人の思想的原点もこのあたりにひそんでいるような気がしました。

 当初は、『冰川天女伝』のあらすじを詳しくお伝えするつもりでいたのですが、現在この続編ともいうべき『雲海玉弓縁』を読み終えて、その次の『冰河洗剣録』を読んでいるところで、物語に引きずり込まれてしまっていて、あらすじを詳しく書く余裕がありません。あしからず。