2010年4月29日木曜日

風雲雷電

 『風雲雷電』は、単行本2冊の小説で、梁羽生の武侠小説の中ではやや長編に位置するものの、取り立てて長編であるという印象は受けません。しかし、この小説は前置きが長くて、かなり読み進まないと、物語の骨格が見えてきません。一冊目の後半あたりからやっと登場人物も出そろってきて、物語のテンポもよくなって、面白くなってきます。
 この小説の題名の「風雲雷電」は、梁羽生自身も作品のなかでふれていますが、4人の主人公のニックネームをただつなぎ合わせただけのものです。つまり、「黒旋風」「雲中燕」「轟天雷」「閃電手」がそれです。しかし、これらの主人公の出自にはきわめて興味深いものがあります。屠百城の「関門弟子」としての「黒旋風」こと風天揚、「雲中燕」を名乗る成吉思干(ジンギスカン)の孫娘にあたる貝麗公主、梁山泊百八星の一人凌振の末裔にあたる「轟天雷」こと凌鉄威、耿照の息子の「閃電手」こと耿電と、登場人物の経歴の多彩さはこの物語のひとつの特徴となっていると言えるでしょう。
 また、「黒旋風」と「雲中燕」との恋や、梁山泊百八星のひとり秦明の末裔・秦龍飛と金の完顔長之の娘完顔璧との恋など、本来は敵同士の間柄でありながらそれを越えて結ばれていく物語の展開は今まではあまり見られなかったので、新鮮な感じを受けました。
 宋代の最後を締めくくるこの作品には、いままで登場してきた武林天驕こと檀羽沖や笑傲乾坤こと華谷涵、さらには李思南などの過去の主人公も次々と登場してきて、そうした意味でも「豪華キャスト総出演」という印象が強いです。
 この作品のなかには、梁山泊=『水滸伝』についての記述もあり、これも私にとっては興味深いものでした。

2010年4月12日月曜日

瀚海雄風

 題名の『瀚海雄風』は日本語では「かんかいゆうふう」とでも読めばいいのでしょうか。中国語で瀚海 (han4hai3) とは、大砂漠のことです。「大砂漠に雄々しき風が吹く」となると、この小説の中身もかなり推測できるのではないでしょうか?
 時代は、『鳴鏑風雲録』よりすこし前で、南宋、金、西夏、そして蒙古が入り乱れているあたりです。物語は、蒙古に徴用されて音信不通の父を捜しに大砂漠を越えて蒙古へ向かう李思南をめぐって始まります。しかし、物語の後半は金の国師でありながら蒙古にも内通している陽天雷を「清理門戸」する闘いに焦点が絞られていきます。
 そして、おきまりのパターンとして、若い幾組かのカップルの間の行き違い、すれ違いの果ての恋の成就が連綿と描かれていきます。ここまで数十冊も梁羽生の武侠小説を読んでくると、だいたいパターンも読めてきます。それにしても、広大な中国で、偶然にしては都合よくばったり出くわす機会があまりにも多いですなあ!