2010年2月23日火曜日

飛鳳潜龍

 全集のなかで、89ページばかりのこの短編は、いままでの梁羽生の作品とはやや趣が違います。短編であるがゆえに、物語のテンポも速いし、誰が「奸細(スパイ)」かという謎解きもあって、中国語の多少難しい表現などは読み飛ばして、一気に読み終える楽しみがあります。
 登場人物は、御林軍統領の完顔長之(wan2yan2chang2zhi1) ぐらいが前作に引き続いて出てくるだけで、まったく前作とは関連がありません。
 金が宋から奪い取った武術の秘伝を取り返そうとする「潜龍」を名乗る正体不明の使い手、密かに金に潜入して妻にも自らの正体を隠してこの秘伝を盗みとろうとする蒙古のスパイ、そして彼らの過去には意外な結びつきがあって、最後まで目が離せません。
 長編ばかりが続いてきたこの時代をめぐる作品群のなかで、息の抜ける一作でした。

2010年2月11日木曜日

狂侠天驕魔女

 『武林天驕』の続編ともいえるこの作品は、単行本で4冊、158万字にもおよぶ長さで、梁羽生の作品群のなかでも一二を争う長編です。
 このおどろおどろしい題名は、じつは登場する三人の主人公の「外号(wai4hao4)」(ニックネーム)を重ねただけのもので、それ自体はなにも意味がありません。つまり、狂侠・笑傲乾坤こと華谷涵、武林天驕こと檀羽沖、蓬莱魔女こと柳清瑶です。この三人の主人公を中心に男女間の微妙な恋心の変遷を横糸に、さらに金、南宋、遼、西夏、蒙古などを巡る戦いを縦糸に、そしてなによりも彼らの持つ「武功」を華麗なる紋様として物語は紡がれてゆくのです。
 ところで、この物語に出てくる武林天驕こと檀羽沖は、『武林天驕』のなかの檀羽沖とは生い立ちなど微妙に違っています。そうだったら、同じ名前でここに登場させない方がよかったのにと思えるほどです。でも、このいい加減さが梁羽生の作品のひとつの特徴でもあるわけで、おおらかな大陸的寛容さでもって、ヨシとしておきましょう。