2008年6月10日火曜日

冰川天女伝 (3)

 こうして始まった『冰川天女伝』は、だがしかし陳天宇が主人公ではありません。この物語の主人公は、作品の表題にあるように、冰川天女=桂華生と華玉の娘・桂冰娥です。
 物語の前半は、チベットが清の支配下にあることを誇示するために、清朝廷が「金瓶」をチベットに下賜することを巡って展開されます。このなかで、桂冰娥と唐暁瀾の息子・唐経天との出会いとふたりをめぐる様々なできごとが描かれていきます。
 物語はの後半は、毒龍尊者の弟子である金世遺をめぐる話が中心になっていきます。金世遺は、師から伝えられた内功の修行ゆえに、かならずや魔境に入り(「走火入魔」)死に至ってしまうこと、そしてそれは天山派の正宗な内功をもってしか救えないこと、そして呂四娘や唐暁瀾は毒龍尊者との結びつきからなんとかして金世遺を救おうとするのですが、逆に金世遺は天山派の救いの手を素直には受け入れようとはしないこと、‥‥などが描かれていくのです。
 結論的には、金世遺は唐暁瀾によって助けられ、また桂冰娥と唐経天は結ばれるのですが‥。
 この小説を読んで、ひとつ気にかかったことは、「金瓶」をめぐる騒動のなかで、チベットがネパールやインドの支配下におかれるよりは、たとえ清朝のもとであっても中国の支配下にあったほうがいいと、反清で団結する江湖の英雄たちがみな大中華思想に絡めとられてしまったことです。オリンピックの聖火とチベット問題をめぐって、あのように中華ナショナリズムを発揮する中国人の思想的原点もこのあたりにひそんでいるような気がしました。

 当初は、『冰川天女伝』のあらすじを詳しくお伝えするつもりでいたのですが、現在この続編ともいうべき『雲海玉弓縁』を読み終えて、その次の『冰河洗剣録』を読んでいるところで、物語に引きずり込まれてしまっていて、あらすじを詳しく書く余裕がありません。あしからず。