2007年5月6日日曜日

冰魄寒光剣 (4)

 「以前、私をつけていた二人の僧もこの笛の音を聞くやいなやあわてて逃げていったことがあった。いったい彼等はなぜこの笛を怖がるのがろうか?」と言うマイシジャナンに、「自分は魔鬼城をもうすこし探りたい。それに笛の主も知りたい。」といって別れを告げ、桂華生はふたたび白い塔のある建物にもぐりこんだのであった。そこで、王子が六十過ぎの老ラマ僧を自ら出迎えているのを目撃する。二人の話から、このラマ僧はチベット紅教の一番の使い手である藏霊上人であることが判明したが、桂華生は父・桂仲明が「天山七剣のひとり易蘭珠が藏霊上人に百手を繰り出してやっと勝った」とかつて話していたことを思い出だす。
 チベットの三藩王の使者、白教法王の使者、そしてチベット紅教の藏霊上人と、このネパールの王子が今日会った人物から推し量るに、王子のチベットの対する陰謀にはただならぬものがあると感じる桂華生であった。
 藏霊上人は、アラブ一の使い手・ティモダドとインドの龍葉大師がここにいないことを知るや、「来年になればこの二人はきっと来る」と引き留める王子に対して、「何十年もかけてやっと手がかりをつかんだ宝物を探しに行く。待てない。」といって、八名の武士を手下に借り受け出て行ってしまったのである。
しばらくすると廟のなかに緊張が走った。遠くから笛の音が聞こえてきたのだ。この柔和で妙なる笛の音は、廟の門の前にくるとピタリと止まり、かわりに扉をたたく鉄環の音が響きわたった。王子らはあわててお面をつけて顔を隠し、それから門を開けさせたが、なかに入ってきたのはひとりの白衣の少女であった。チベット人にも少し似ているような、また漢人とも少し似ているところがある異国の少女。だが桂華生はこのような絶世の美女をいままで見たことがなっかった。そして、この異国の美少女が中国・華南の曲を吹くるとは、にわかに信じられなかったのであった。

(注) 「白衣の美少女」は中国武侠小説にはよくでてきます。金庸の「小龍女」も白衣の美少女、しかも絶世の美少女でした。そして、メチャクチャ腕が立つ。この「白衣の美少女」が登場してくると、物語はいよいよ佳境に入りつつあるといえるでしょう。まさに「定番」といった感じです。