2007年9月28日金曜日

冰魄寒光剣 (14)

桂華生は巴勒とすっかり意気投合して、ネパールの姫の婿取りの話をしているとき、ひとりの武士がやってきて巴勒に慇懃に礼をして、一つの銀の小箱を差し出 した。そのあと、この武士は一言もしゃべらず、すぐに帰っていってしまった。あっけにとられた桂華生は、巴勒に目をやると、銀の小箱を持つ手が小刻みに震 えているではないか。あたかも災いを前にしているかのように。
 「ご老人、なにかお困りでも?」
 「お気遣い、礼を申します。なにもござらぬ。もう遅いので、帰らなくては。」
別 れを告げた桂華生は、巴勒の身に災いが降りかかりつつあるの感じ、ひそかに後をつける。巴勒の屋敷を確かめ、あたりに人の気配がないこと確認するや、直ち に軽功を駆使して屋根に飛び乗り、中を窺う。なかでは、テーブルの上の銀の小箱の蓋が開けられ、玉、翡翠、金などが見える。だが、巴勒は中にあった手紙を 手に、ぼんやりとして、ため息をつくのみである。
 桂華生が部屋のなかにに音もなくはいり、 「ご老人、何かご心配ごとでもお有りですか? 小生がお役に立てれば。」と声をかけると、びっくりした巴勒は、「なんと真義にあついお方であることよ。感服いたしますぞ。でも、やはり関わらない方がいい。」とため息まじりに言うのであった。
 「ご老人がお困りなのを放ってはおけません。」
 「私は酒屋でお若いのの腕に触れたとき、その脈から並々ならぬお方だとわかったし、絶世の武術を究められていることも知っている。しかし、異国の方が国王の軍・御林軍に刃向かうのは好まぬのでのう。」