2007年10月2日火曜日

冰魄寒光剣 (15)

 「ご老人は、医で世の中をお救いになっておられる。御林軍に楯突くなどあろうはずがありません。」
 「わしもさっぱり訳がわからんのだよ。これが吉なのか凶なのか‥。まったくわからん。」
 「さらに詳しく話してください。」と桂華生に促されて、巴勒は、今夜御林軍の総督に呼ばれていること、国王が慢性の毒に侵されていること、その毒を除かなければ三ヶ月後には死因がわからないような状態で死んでしまうこと、などなどを語った。そして、ともかく総督に呼ばれているから出かけるという巴勒を説得して、桂華生は巴勒の召使いに変装して総督の別荘(それは密かにもうけられた監獄でもあるのだが)へ向かうのであった。
 立ち並ぶ武士に囲まれ、待ちかまえていた総督のそばには、かつて桂華生が魔鬼城で手合わせしたことのある紅い袈裟の僧がすわっていた。だが、幸運にも召使いに変装していた桂華生は、なんら気づかれることがなった。
 総督は、巴勒にたいして、「国王は病気ではなく、たんなる頭痛にすぎない。頭痛の処方箋をかけ。」とせまる。桂華生もすぐにその意図を察した。「もし国王が中毒で死んでも、国中第一の神医・巴勒が証明していれば誰も怪しむ者はいない」のだ。
 きっぱりと断る巴勒にたいし、総督と紅い袈裟の僧が迫るなか、桂華生の怒りが爆発した。居並ぶ武士たちを倒し、総督をつかまえ、盾にして、国王のもとへ行こうとするそのとき、後ろから巨大な力が押し寄せてきた。なんと、それはアラブ第一の使い手・ティモダドであった。