2008年4月6日日曜日

冰川天女伝 (2)

 物語は、西蔵(チベット)の草原を歌を歌いながら旅する歌芸人の一団を眺める一人の少年からはじまる。彼、陳天宇の父・陳定基は乾隆帝の寵臣・和坤の弾劾書を上奏したが故に、チベットの薩迦宗の宣慰使に左遷されてはや八年、息子の陳天宇もすでに十八になってしまったのである。
 目の前を行き過ぎる旅芸人のなかに、歌を歌わず口を固くと閉ざしたチベット族の美貌の少女を見つけ、陳天宇はその場に釘付けになってしまった。と、そのとき、旅芸人の一団の中にいたひとりの漢民族の男が陳天宇にむけて矢を放った。陳天宇はとっさに身を翻し、ぱっと矢を素手でつかんだ。「カラスがうるさいから矢を放った。弓法が未熟で、矢が逸れてしまい申しわけない。」というその男は、だがしかし彼の「空手接箭」の腕を試していたのであった。
 陳天宇の武術は、家庭教師として陳定基にしたがってチベットに来ていた蕭青峰にひそかに教わっていたもので、かなりの腕前になっていた。そして 陳天宇に矢を放った男こそ、蕭青峰を仇と狙いチベットまで探し求めてきていたのであった。