2007年6月11日月曜日

冰魄寒光剣 (7)

 藏霊上人の手下としてつれていかれた武士のうち先に氷窟にはいっていた四人は、あまりの寒さに青息吐息でそとへ引き上げられた。残りの四人が代わりに中へ入れと命令され、尻込みしているところへ、この白衣の少女がぱっと飛び出した。「寒玉」を横取りされてはなるものかと、藏霊上人はすさまじい勢いで少女に襲いかかる。さらに桂華生も藏霊上人とのたたかいに巻き込まれ、白衣の少女の笛の音に助けられ、自らの「達磨剣法」と少女の笛の音の導きの結合で剣の新境地を会得し、藏霊上人を打ち負かしてしまうのであった。
 氷窟のなかに入った二人は、藏霊上人がその硬さ故に掘り出すことができなかった「寒玉」を、桂華生の持っていた「騰蚊宝剣」を使って掘りだすとともに、かつてインドの高僧が書き残した「寒光剣」の使い方や、「寒気」の克服の仕方を記した梵語の経文を偶然発見したのである。
 「寒玉」を手に入れたのもつかの間、藏霊上人にそそのかされた赤神子が、この「寒玉」を奪いに氷窟に乗り込んできた。桂華生が応戦するが、ときに熱く、ときに寒くなる赤神子の掌力にタジタジとなる。もはや支えきれなくなったそのとき、白衣の少女の氷弾が赤神子めがけて撃ち出された。氷窟のなかに残された梵語の経文から、冰魄神弾の暗器を会得したのだ。
 こうして、藏霊上人と赤神子を打ち負かし、「寒玉」を手に入れた二人は、氷河や氷壁に閉ざされた峰々、天上の湖などのあいだを、ときに詩歌をときに剣法を語り論じ合いながら散策し、こうしてあっとい間に三日が過ぎ去ってしまったのである。江南第一の才女とうたわれた冒浣蓮の息子である桂華生は、幼い頃から母の薫陶をうけ、文の道にも深い造詣があり、少女との結びつきはますます深まっていったことはいうまでもない。
 だが、別れのときが来た。少女に情がうつり、「ここに三年いて、ともに剣法の研鑽に励めば、あらたな剣法をあみ出すことができる」といってひきとめる桂華生にたいし、白衣の少女は、どこからとなく聞こえてきた笛の音を聞くや、「侍女が待っているわ。」と言って絶妙の軽功を駆使して風のように去っていてしまったのである。