2007年6月6日水曜日

冰魄寒光剣 (6)

 念青唐古拉(ニェンチンタングラ)山のなかのすらりとして美しい少女の立ち姿に似た峰の近くまで来たとき、その白衣の少女が、「耳を澄まして。彼等が掘っているわ。私たちはちょうどよいときに来たのよ。」と、突然言い出した。桂華生が、耳を凝らすと、確かに氷に覆われた峰の中腹から、氷壁を穿つ音が聞こえてきたのであった。
 桂華生は思わず白衣の少女に向かって問いかけた。「いったいどんな宝物なんだい。世にも珍しい物とは?」「信じないの? この世で一番の珍しい宝でなければ、藏霊上人が人生の半ばを費やして探すわけがないでしょう。その宝物が、この玉女峰の千丈の氷窟のなかにあるのよ。」 彼女の答えは、聞くほどに奇妙であり、桂華生はその秘密の答えをはやく聞き出そうと少女をうながすのである。
「三年まえ、私はインドの龍葉大師にお目にかかる縁があって、そのとき彼は私にいくつかの内功の奥義を教えてくれたの。また梵語の秘典も頂いたのよ。その秘典なかに、神話のような秘密が書いてあったの。」「その秘密というのは、念青唐古拉山の玉女峰に氷窟があって、そのなかに何億年も融けない氷雪の精霊が玉石と凝結し、大きな玉石になっているというの。その中心のもっとも美しいところを掘り出して、剣をつくれば、それこそ天下無敵となるわ。」「藏霊上人はチベットを旅しているとき、偶然この秘密を知ったらしいの。寒さを克服する奇薬を集めたり、何十年も準備してこの場所を突きとめ、寒さが和らぐこの時期をねらってここへ来たという訳よ。」